第 82 話
  不滅のボーリング
 

  さて、きのうはネーサンのお誕生日でした。ネーサンって別に姉でもなければおネエでもなく、ブラックのにーちゃんです。彼とはかれこれもう6年来のお友達で、インテリの彼には、おもしろいパーティやイベントに連れて行ってもらったり、変わった連中をたくさん紹介してもらった。

  ともかく彼は顔が広く、イーストビレッジあたりを一緒に歩いていると、行くところ行くところで誰かが必ず挨拶をしてくる。70代のおばあちゃんまでもが、「あらまあネーサン」とうれしそうにハグしてきたりするので驚いてしまいます。まあ知り合いの大部分は、イーストビレッジの金のない気のいいアーティストなのですが、なかにはなぜかウォールストリート勤務のヤッピー、なんてのもいました。

  さて、もう一度話を元に戻します。きのうネーサンのお誕生日が、ミッドタウンのボーリング場で行われました。そう、これが実は言いたかったのよね。

  私はニューヨークに来てからひんぱんにボーリングをやるようになった。まさかこんなエキサイティングなシティで、よりにもよって何もボーリングをやらなくても、と思うんだけどねえ。だっていまいち華やかさとかかっこよさに欠けるでしょ。第一、あのボーリング用のシューズってのがどうもかっこ悪い、と思いませんか。あのぺったりしたデザインってば、ファッション性のかけらもないですよね。

  重いボールを投げてピンを倒す、という行為も良く考えてみるとだらしがない。おい、何やってんだ、と投げてる後ろから誰かに指摘されたら照れ笑いするしかなくなる。スポーツなのかお遊びなのかはっきりしていないのも、ボーリングの弱みです。

  ところで、インテリで前衛派のネーサンが、なんでまたよりによって、ちょっとダサいボーリングに入れ込んだのかわからない。でも問題は彼のまわりの連中が、そろいもそろってついついボーリングに巻き込まれてしまった、というところにあります。この私も含めてです。ネーサンがやるんなら、まあ参加するしかないなあ、という不思議なノリで、週末ごとにボーリング場に集合するという熱い時期があったのでした。

  最初は数人だったのがそのうち多い時には30人くらいになり、はてはお誕生日会や婚約パーティまで行うまでに成長したのでした。ネーサンの人柄がなせる技であります。でも、私らは別にボーリングがやりたかったわけではなく、みんなでわいわいくだらないことを話すのが楽しくて集まっていたのでした。

  ところが発起人であるネーサンは本気でした。彼はボーリング場にマイロッカーとマイボールまで持っていたんだから。週末の勝負に向けて毎週月曜の夜に、こっそりボーリング場でレーンを借りてひとりで練習していたらしい。

  そしていざプレイとなると、本皮のごつい手袋をシャキッとはめて登場した。投げる前に念入りな準備体操も忘れない。スーハーと呼吸を整え、目をつぶって精神統一なんてしているんだから、ハンパじゃない。みんなが冗談言ったりピザなんか食っているなかで、彼だけは笑いもせずいつも真剣勝負 をかけていました。

  しかし悲しいことに、彼はかなりヘタ、でありました。投げるポーズはむちくちゃかっこよくて、決めてくれちゃってる、のにちっともストライクが出ない。ひどい時には連発ミゾ掃除になってしまう。私たちはこっそり忍び笑いをしていました。彼のボーリングにかける日々の努力と真剣さを知っ ているだけに、そのギャップがおかしくてたまんなかったのよね。

  たとえば、おカマのマサヒコくんが、すかっと軽くストライク決めて、「あーん、またストライクゥ〜。キャッ」なんて体をくねらせてくれたりした日にゃあ、大真面目なネーサンがよりいっそこっけいに見えたものです。

  さらにその次に、運動神経ゼロのキミーちゃんが、ボールを両手でよたよたどすん、とレーンに落として、それがごろりんごろりんとのんびりころがって行って、ピンが全部倒れたりした日にゃあ、ネーサンのひきつった横顔をこっそり盗み見て、みんなで笑いをこらえたものです。しかも最後になんとこの私までもが、ただの運だけでストライクを出した日にゃあ、もうとてもネーサンの方を見る勇気はありません。

  やっぱりなんだかボーリングは愉快です。どんなに努力して真面目になっても、ダメなものはダメなわけで、まあ冗談みたいにやり過ごしている方が、けっこううまくいったりするんだものね。

  そういうわけで、なんだかんだ言ってもまだまだ私たちの間でボーリングは不滅です。     

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