第 73 話
    楽園プエルトリコ
 

 マイレージがたまってしまったので、ちょっくらプエルトリコに行ってきました。アメリカ国内ならフリーで行けるんだよーん、と言われても、アメリカ国内で、行きたいような場所なんて全然思い浮かばない。まったくアメリカってのはつまらん国であります。

 そういうわけで、プエルトリコが一応アメリカで本当によかった。とこういう時だけいきなし、プエルトリコはアメリカ合衆国に属すべきだ派になる私であります。だって同じカリブ、同じニューヨークから3時間半のところにある島でも、ジャマイカだと今回のマイレージでは行けないのである。キューバなんてもっての他であります。

 マイレージもさることながら、実はこの島には友達のじいちゃんとばあちゃんが住んでいて、好きなだけ泊めてもらえるのも魅力でありました。そうよ、金がなくても旅はできるのさ。

 さて、プエルトリコは、山の姿と色合いがいい。バカ高くもなく、バカでかくもない。深緑、黄緑、茶緑、浅緑、ど深緑に、ど浅緑…。微妙な色合いの緑たちが何重にも折り重なり、そのみごとさに思わずバシャバシャとカメラのシャッターを切ってしまう。 

 しかし残念ながら、ビーチはジャマイカの勝ちとみた。プエルトリコの海はなんでか青くないのよね。透明度が悪く、日本海のようなかすんだ色をしています。あの、のほほんと間の抜けたように青いジャマイカのビーチの美しさは、とうとうプエルトリコでは見つからなかった。

 すごいなあ、と感心したのは、フルーツの種類の豊富さでありました。どこの家にもいろんな種類のフルーツの木をいっぱい植えてあり、マンゴやココナッツ、グァバなんかがごろごろ地面に落ちている。食べたくなると裏庭に出て拾ってくるわけであります。なんせ熟れたての採れたてなんだから、うまいったらありゃしない。こんなぜいたく、ニューヨークでは絶対味わえません。

 さて、このあたりで一般的な旅の感想はやめることにして、ほんとはこれが話したかったのよお、うずうず、のお話をしましょう。

 実は、ここプエルトリコに住む、その友達のじいちゃんばあちゃんのことであります。どちらも83歳のこのお二人、その昔結婚し、離婚した。じいちゃんはなんと3回結婚しておるんじゃと。ばあちゃんと来た日にゃもっとすごい。6回も結婚しておるんじゃと。ああ、いけない。ついつい、じじばば口調になってしもうた。

 じいちゃんは、敬虔な宗教家です。20年前までアル中で荒れた人生やっていたんだけど、ガンで死にかけ、奇跡的に生還し、それ以後宗教に人生を捧げている。アレシボという田舎で、犬のチュッチョとひっそり質素に暮らしています。英語はまったくしゃべれない。何ひとつぜいたく品はない。私がおみやげに持っていった孫の手と、アイ・ラブ・ニューヨー クTシャツに涙してくださった。ピュアで愛らしい人であります。

 ところが、あとで友達からこっそり聞いたところによると…。一緒にテレビを見ていた時のこと。ぴちぴちのギャルがお尻をふりふり登場した。その時、この敬虔なじいちゃん、「いい女やなあ。一発やりてーなあ」とつぶやいたそうな。「じ、じいちゃん、敬虔な宗教家がそんな下世話な欲望を持っていいのか?」と友達が驚いたら、むっつり黙ってしまったそ うな。

 さて、一方ばあちゃんの方は、首都であるサンウァンの高級高層マンションで、優雅にひとり暮らしをエンジョイしています。友達もいっぱいいて毎日どこかしこに出歩いている。英語もけっこうしゃべれる。そして、高そうな香水の香りをまき散らし、じゃらじゃらと派手なゴールド系のブレスレットとネックレス、でかでかした指輪、耳たぶがちぎれそうなイヤリングを、一日中、部屋の中でも身につけています。このばあちゃん、どう見ても83歳には見えない。60代、いや50代といっても通用しちゃいます。

 「そりゃ若く見えるに決まってるわ。だってばあちゃん、もう最低5回は、フェイスリフトやってんだもん」と友達から聞き、腰が抜けた。今どきの人ならまだしも、よりにもよって83歳のばあちゃんが、その昔からせっせとフェイスリフトなんてこじゃれたことをやっていたとは、いやはや恐れ入りました。

 そういえばこのばあちゃん、テレビを見ている私の横顔をじいッと見つめて、「あなた、きれいなお肌をしてるわね。化粧品、何使っているの?」としつこく尋ねてきたのであった。こういう質問を83歳のお人からされた私は、なんだかひどく居心地が悪い思いをしたのでありましたが、そうか、そういうことだったのか、と妙に納得してしまった。

 このハイカラばあちゃんに、記念写真を撮りたいとお願いしたら、30分くらい着替えだの化粧だのに引っ込んだかと思ったら、壁にもたれかかって口を半開きにし、カメラの前で妙になまめかしいポーズで、しっかり決めてくれました。

 そういうわけで、あー、おもしろかったあ。プエルトリコの人たちは、もしかしたらかなり愉快豪快痛快かもしれない。今度こそ本気でスペイン語を勉強して、次回はひとりで訪問してみたい島であります。  

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