第 62話
           キューバに行きたい

 いきなり思いついて、キューバに行くことを決めて1か月たった。なんでハバナでもハワイでもインドでもチェコスロバキアでもなくキューバなのか、私は知らない。しかし基本的に男っぽい南の島ってのが私の好みでして、ジャマイカに7回も行ってしまったのもそのせいであります。話が南の島となると、いきなり私はレイシストになるのだ。マッチョなイメージが似合う島、が私は好きですね。腕に日焼けした筋肉がもりもりつやつやついた漁師が、夜になるやおしゃれしていい女ひっかけてかっこよくラムを片手に音に合わせてセクシーに踊り出す、みたいな、ね。ハワイとかハバナとなるとこうはいかないでしょ。女々しいのよね、あのへんの南の島は。

 しかしながら、実を言うと私はキューバについては何にも知らないのだった。恐ろしいことに、この南の島がスペイン語の国であることすら、私は知らなかったのです。ちょっとアメリカと仲が悪いみたい、くらいの知識はあった。しかし、とっても仲が悪いとは知らなかったのよね。

 さて、いろんなガイドブックを読み始めて、「こ、ここは実はものすごくめんどうなことになるかも。」とのんびり屋さんの私もあせってきました。なんでもキューバに入れてもらうには、ツーリストカードとやらが必要で、それってアメリカではジャーナリストみたいなスペシャルな職業の人にしかまず出してもらえない、と書いてあるじゃないか。しかも実はアメリカ市民や私みたいに永住権を持っているとビザが必要らしい。そんなもの、キューバをよく思っていないアメリカが景気よく出してくれるはずもない。

 あせった私はともかく情報を得なければあかん、とあらゆるところに電話をかけまくった。もちろんアメリカにはキューバ大使館とか領事館なんていう類のものはないわけで、日本のキューバ領事館にまで電話してみました。が、「アメリカの考えていることはよくわからないんです。キューバはアメリカのこと何とも思ってないんですよ。なのに、アメリカがキューバのこと嫌うんですよ。」などど、男と女の痴話ゲンカ聞いてるような内容になってきて、「そりゃ困りましたねえ。」と相づち打つしかない私でありました。

 ニユーヨークの旅行会社も何も知らないし、途方にくれた私はブルックリンのプロスペクトパークでキューバン・バンドがコンサートやる、というのでひとまずそれに行ってみることにした。

 そこで案の定、キューバに3回も行ったというアメリカ人に出会った。こういう人が絶対いる、とにらんでいたんだわ。彼はハバナからイリーガルでキューバに入った、という。キューバのイミグレは実によくわかっていて、アメリカンパスポートには入国スタンプを押さないんだって。「でも、私のは日本人パスポートなんです。ぐすん」としょんぼりしていたら、「うーむ、でもやってみるしかない。アメリカ人のふりをしなさい」などと、とんでもないアドバイスをくれる。

 その後、今度はカンクンからキューバに行きました、というイギリス人を知り合いに紹介してもらった。彼女はイギリスのパスポートだったけど、やはりスタンプは押されなかったというじゃないの。

 まともに筋を通している場合ではない、と政府関係機関に見切りをつけた私は、今度はカンクンの旅行会社を調べ電話をかけてみた。が、向こうから聞こえてくるのはスペイン語ではないか。しょんぼりと黙って電話を切る私。それでもあきらめきれずに電話をかけ続けていたら、最後にやっとすごいスペイン語なまりの英語で出た旅行会社が、ツーリストカードの手配をしてくれることになった。

 いやはやここまでにたどり着くのに、一体どれだけ時間を要したことか。たかがちょっとした観光旅行でこんな目にあうなんて初めての経験である。しかし実はまだキューバのイミグレでスタンプを押されるかもしれない、という不安は残っているんだが、「あー、もうめんどいわい」と私は、運を天に任せることにしました。

 運を天にお任せしたら、もうこわいもんなしであります。あとは、他の楽しいことや簡単そうなことをやっていればよいわけで、私は近所の例の公民館でサルサのクラスをとったり、ご近所のデリのオヤジにスペイン語を教えてもらうために買い物に行ったり、もちろんそれ系のクラブにも通うようになったわけです。「オラオラ、アレアレ、シーシー」なんて言いながら、足をちょこまかちょこまか動かし、チャカチャカ音楽を聞く私。ああ、人生ってわかんない。私は自分の人生の中でこんなことする時期が来るとはツユとも思わなかったですね。

 さあて、一体どうなることやら。次回はそういうわけで、キューバのお話になります。あ、今回は日本から友だちが4歳のガキ連れで飛び入り参加。これもすごい。子連れのキーバなんて、泣かせるぜい。では、ともかく行って来ます。アディオス!

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