第 58 話
            私の「出会い運」

 私は男運が悪い。口を酸っぱくして言うが、恐ろしく男運が悪い。だが、神様はやはり人間を平等に作ってくださっているらしく、それを穴埋めするかのように、私の出会い運はかなり強い。

 小学生の頃、テレビのある子供向け番組の主役の男の子に惚れ込んだことがことがある。その日曜日の夕方からの番組を心待ちにし、番組が始まるや、モニターにしがみつくようにしてうっとりと彼の顔に見入っていたものよ。私はもうその男の子の名前すら思い出せないような薄情な女に成長してしまったが、ともかくあれが私の初恋だったのかもしれない。一度でいいから生の彼に会いたい、と幼心に思い詰めておりました。

 さて、なんとまあ私のせつない思いが神様に届いてしまったのだ。私の住む漁村から船でポンポン渡っていく小さな島で、その番組のロケが行われてしまったのよ。こんなことってまずあり得ない、と思いませんか。もちろん私はポンポン船に乗り込んで、彼に会いに行きましたともさ。今でもはっきり覚えている。何かプレゼントをしなきゃ、と考えた幼い私は、夜中にこっそりと近所の庭に忍び込み、両手に抱えきれないほどの花を摘み、すたこら逃げて帰ったのでした。明るいところでちゃんと見たらそのほとんどが雑草のような野花だったので、無性に悲しかったものです。ゴージャスなローズのほうがかっちょいい、と幼いながらもわかっていたようだ。

 ともかく、私はそのあこがれの君にしっかりご対面してしまった。お話までしてしまった。握手までしてしまった。あの時の夢のようなひとときは、もしかしたら私の一生を決めてしまったかもしれない。「そうか。会いたいと強く思っていれば、テレビに出ているような人にだって会えるものなんだ。世の中とはそういうものなんだ。」とうっかり簡単に納得してしまったのでした。 

 さて、時は過ぎ、私は会いたい人との出会いをまたもや果たしてしまった。それは、あのダウンタウンのマッちゃんこと松本人志でありました。吉本大好きの関西出身の私は、こいつらはただ者ではない、と彼らが有名になる前からすでに目をつけていた。特にマッちゃんのあのヘビ目に、一度でいいから睨まれてみたい、とネズミの気持ちになるくらい惚れ込んでいたのでした。

 当時ある広告代理店に勤めていた私は、あるサントリーという大企業のコマーシャルのプレゼンテーションに彼らを使ったアイデアを出し、熱意とはったりでゴーサインを出させたのでした。まだ関東地区では無名に近かった彼らをよくぞ使ってくれたものです。これも私の会いたいよーパワーのなせる技であります。ということで、マッちゃんとはお話も握手も色紙のサインもいただいた上に、念願のあのヘビ目でジロリと睨んでもらえました。 

 で、またまた月日は過ぎ、またもや私の会いたいよーパワーが爆発する時が来た。今度はあの、山田詠美さんでありました。何者じゃそいつは?といぶかるアメリカ在住歴十年以上の方のためにご説明しますと、ブラックとジャパニーズのセンセーショナルな恋愛小説でデビューしたブラック好きな作家、という言い方をされているが、実はとんでもなくせつない純愛小説を書く物書きさんです。私は彼女の小説からエッセイまでともかく大大好きで、ああ、彼女のようなとびっきりな女と一度でいいからご対面してみたい、しかし今度のお方はタレントでもないし、まさかサイン会に行って会っても意味ないし、どこかのレストランで見かけたなんていう子供だましのようなものでは納得がゆかん、などとぶつぶつ考えていたのでした。

 そしてまたもや神様が男運のない私に同情してくれた。よしよし、穴埋めに山田詠美さんとご対面させてやろう、とセットアップしてくださったのでした。私の初めての本「ほんじゃまジャマイカ」が出版されることになった時、編集者のにーちゃんに何気なく「私、山田詠美さんの大ファンで…。」と話したら、「あ、じゃあ、会いますか?そうだ、この際対談して、この本に入れましょうよ。」などとあっさり決めてしまったのでした。

 対談当日、ゴージャスなローズの花束をプレゼントできなかった幼い初恋の無念さをここで晴らさんとばかり、私はバラの花束をしこたま買い込んだ。その時の私は、惚れ込んだ片思いの女と初めてデートする、ウブな男でありました。編集者さんには本当に申し訳なかったけれど、対談どころか、私にとってはあこがれの人とのごたいめーん、のシーンに他ならなかったのでした。

 余談ですが、山田詠美さんは私が今まで会った人のなかで、間違いなくダントツに知的な人であります。そしてダントツにファニーでクール、という言い方がいちばん似合う女性です。

 さて、実はまだもう少し続きがあるのよ。先週、偶然にも映画監督の山本政志さんと会ってしまった。次回はこのお話をするからね。

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