第 55 話
            サプラーイズ!!

 友だちからメールが入った。「来週の金曜日は私たちの友、トッドのお誕生日です。ついては、本人には極秘で土曜日にサプライズ・パーティーを催しますので、ぜひ参加してください。」

 ファッション・デザイナーのトッドとは、かれこれ4、5年越しの親友であります。これを言うとみんな驚くのだが、私たちはブラインドデートで知り合った。一目会ったその瞬間、「こら、あかんわ」とお互いが感じた。こうなると話は早い。その頃彼は、昔別れた彼女のことでまだぐずぐず悩んでいました。私はそんな彼を励まそうとした、んだが、当時の私の英語力のなさから、ほとんどコミュニケートできなかった。普通なら言葉もままならないような奴なんて、めんどくなってそのうち会わなくなるものです。

 ところが彼は違っていた。私のつたない話を 辛抱強く聞いてくれ、パニくってくると「だいじょーぶ、だいじょーぶ」といつもニコニコ待ってくれる。この短気で自分勝手なニューヨークで、彼のようなステキな男友だちを得られたことは、本当にラッキーでした。

 さて、その彼のサプライズ・パーティーである。何を隠そう、こんなにパーティー好きでどこにでも顔を出すこの私が、なぜかサプライズ・パーティーだけはまだ参加したことがなかった。噂には聞いている、かのサプライズ・パーティーというものをついに体験できるチャンスが訪れたってわけだ。

 当日、彼の友人ルースのアパートメントには、すでに二十人ほどの友人たちが集まっていました。おかしいのは、来客が階下の玄関でブザーを押すたびに、「シーッ!」「シィィー!」と言いあって、沈黙を作るのよね。「誰?」…。さっきまでガヤガヤ騒いでいた人達が、あわてて口を閉じ、一斉にかたずを飲んで耳をすませる。「マイケルだよーん」。なーんだ。そこでみんなどっと緊張がとけて、またガヤガヤが始まります。誰かがブザー押すたびに、シーシーが始まり、かたずを飲む。で、なーんだもうー、ガヤガヤ、になる。

 「ところで、トッドには何て言ってあるわけ?」誰かがルースに質問する。「相談したいことがあるので、ぜひ今夜うちに来てくれ、と言った。」「えっ」。みんな顔色が変わった。だって、よりにもよって おちゃらけトッドを人生相談の相手に選ぶなんて、本人がいちばん怪しむに決まっている。「うーむ、これはヤバい。敵はすでに何かに感づいたかもしれん。」

 すでに約束の時間から四十分が経過した。「トッドって、時間ちゃんと守る人だよね」。誰かがぽつんとつぶやく。みんなの顔が一斉に曇る。「これで本人が来なかったら、どうなるわけ?」「えっ、こ、来なかったら、困る。」発起人のルースの額からは、汗が吹き出している。だって、もう三十人以上集まってるんだよ。一体どうしてくれるんだよー。これで本人が来なかったとしても、「じゃ、本日はそういうことで。お疲れー。」なんてあっさりお開きにするわけにもいかない。だからといってこのまま朝まで待てとでもいうのか。

 「ラーメン食いたい。」誰かが、つぶやいた。メインの人間がいない上に、ジャンクフードと飲み物だけのパーティーは、どんどん収集がつかなくなってきた。待つ、ということができない奴らばかりなのである。すでに一時間以上経過していた。

 その時またブザーが鳴った。もはや誰もシーシー言わない。もう勝手にしろや気分であります。「トッドだよーん!」。おお、インターフォンの向こうからついに主役の声が!みんなあわててシーシーを始めたが、もう遅かった。

 「サプラーイズ…」「サ、サプラーイズ…」「サープラライズ」。彼がドアを開けるや、みんな口々にサプライズを言うんだが、待ち疲れのせいか、全然まとまりがない。ノリがない。ひとりトッドだけが「キャー!驚いたあ。わー、サプライズパーティーだったんだあ。あー驚いた驚いた!」と大はしゃぎ。「いやあ、全然気がつかなかったなあ。」とニコニコしながら、必要以上に驚いたことを強調しています。 

 帰り際、私はこっそり聞いてみた。「ねえ、トッド。本当に全然気がつかなかった?」「もちろんわかってたよ。だってブザー押したら向こう側からわいわい人がいっぱい騒いでいるのが聞こえたから、あ、これは…と思ったよ。」

 そうか、たとえ気がついていたとしても、全然気がつかなかったふりをして、大げさにびっくりするのがサプライズ・パーティーの礼儀、と私は学んだ。うーん、アメリカにも、相手を気遣うややこしいパーティーがあるわけですね。

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