第 51 話
            ニコガム効果

 このお話をすると、私のまわりの人々は必ずあきれ返って笑ってしまう、ニコチンガムの「その後」を報告します。

 私がニコチンガム、略してニコガム、にアディクトしてすでに3年近くが過ぎてしまった。ニコガムの本来の目的は、禁煙である。タバコをやめることである。

 指示通りにきちんとやっていれば、ニコガムの数を徐々に減らしていくことで4カ月後にはタバコをすっぱりやめられ、ニコチンからのアディクトから解放される、はずなのよね。ところがうかつな奴というのはいつでもいるものでして、私のようにタバコは確かに止めたけど、今度はニコガムのほうにアディクトしてしまうわけだ。ニコチンの中毒パワーは、4カ月どころじゃ止めさせてくれないのです。

 そして、ニコガムの攻撃が始まったのは一昨年のことでした。なんだか歯の調子が悪くなった。噛み合わせが不自然なのだ。何を食べても奥歯にもののはさまったような感じで、不愉快この上ない。しょうがないので歯医者さんに行った。「うーむ、歯が少し欠けていますね。しかし妙な欠け方だなあ。何か最近、今までと違うことを始めませんでしたか?」歯医者さんの鋭い質問に、もちろん私はすぐ思い当たった。「実はニコガムを毎日10個くらい噛んでいます。」そう、ニコガムの噛みすぎで歯が欠けてしまったのだ。しょうがないので上の正常な歯を削って、噛み合わせを整えてもらった。

 ところが、ニコガムの脅威はそれで終わったわけではなかった。去年のことである。今度は、奥歯の詰め物がポロッと取れてしまった。そして追い打ちをかけるように、先月ついにまた別の奥歯のかぶせ物がやられてしまったのだ。「これは、もうかぶせ物がボロボロに破壊されていますね。一体何食べてるんですか?」と怪しまれてしまった。ここまで追求されると、ニコガムの件は恥ずかしくてとても言えなかった。

 ちなみに「詰め物」はただ欠けた部分に詰めるだけなのでお安いが、「かぶせ物」は歯の型をとらなきゃいけないので非常に高い。高いニコガムのために月々100ドルもつぎ込み、しかも次々に起こる歯の異常に出費はかさみ、一体私は何やってんだー、であります。「がはは。ニコガムはやめて、またタバコにしたら?」禁煙大反対のカコちゃんは大喜びしている。確かになあ。タバコで歯がうす汚くなったほうが、まだマシかもしれぬ。

 ニコガムの被害者は私だけではなかった。私のお勧めにのって、2年前からニコガムを噛み続けているヒロくんの場合は、アゴをやられた。アゴの骨が痛くて、おしゃべりがうまくできなくなったそうな。つい舌を一緒に噛んでしまって口の中が血だらけになることも多いとか。また、時々誤って飲み込んでしまった時など、内蔵をニコチンが通過していく様を想像して、恐怖に駆られるそうだ。

 こりゃもう被害者の会を作って、ニコガム会社を訴えて一儲けしようぜ、と彼は興奮している。ここはアメリカ、何だって訴えたもん勝ちだ、と彼はいきまく。その昔、熱いコーヒーでやけどしてマクドナルドを訴えて勝ったおばあちゃんの事件まで持ち出してきて、絶対2億はかたい、とすでに胸算用しているんだけど。2年も3年もこんなもん噛んでいる私らがアホだ、とあざ笑われるだけに決まっている。

 ところで、最近なんと「ニコガム、ミント味新発売!」なんてやっているのをテレビで見てしまった。ああ、これはやられた、とつくづく悔しかったものよ。ニコガムがやめられなくなって、もはやタバコ化しているかわいそうな人々が、他にもいっぱいいるんだわ。だって食後のニコガムのうまさったら、食後の一服とまさに同じ。この調子じゃ今にきっと、ニコガム・チョコレート味だの、ニコガム・チェリー味だのが発売されるに違いないぞ。

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