第 50 話
            ゲイ・フレンド

 3年ぶりにタカくんがニューヨークに帰ってきた。しばらくクィーンズの弟さんのところに滞在するらしい。久々に会った彼は、相変わらず着てるものはビンボーくさいわ、髪はのび放題だわ、なのでほっとしました。

 ところで、タカくんにニューヨークに住んでいる弟さんがいるなんて誰も全然知らなかった。それに、何の前宣伝もなくあたふた突然帰ってきた彼を、回りはとても不思議がっていた。きっとみんなにいろいろ聞かれたに違いない。

 「実は...弟はゲイなんだわ。最近彼のボーイフレンドが自殺しちゃって、それで弟はかなり落ち込んでてさあ、メシもろくに食ってないみたいで。こりゃ、ヤバい、と思って、あわてて飛んできたんだわ。」そうか、そうだったのか。ゲイに関してまったく何の偏見もないタカくんだが、やはり自分の身内がゲイとなると自分からあえて話したくなかったんだろう。

 私もその弟さんに会ったけど、やさしい兄がそばについているおかげで、もうすっかり元気を回復し、ゲイの人独特の「なのよね〜」調で、テレビ・テレフォンショッピングの真似なんかむちゃくちゃそっくりにやって、私らをいっぱい笑かしてくれる。ボーイフレンドの死のショックから、勤めていたデザインオフィスもやめてしまい、今は心の回復のために毎日スイミングプールに通ったりしているらしい。

 ところで、私は別にオコゲでも何でもないんだけど、ゲイの友達が何人かいます。ファッション業界の日本人や、グラフィックデザイナーやフォトグラファーのアメリカ人。やさしさと気弱さと細かいところが、みごとに共通している。

 なかでもドラッグクイーン系のマサヒコくんは、まるで小姑のように口うるさい。私もよく女のたしなみを注意される。たとえば、彼は私の横でしっかり小指を立ててオレンジジュースをぐびぐび飲みながら、「ちょっとぉ、ユーコさん、お肌の調子、悪いんじゃない〜?うーん、もッ、ダメ、ダメよ〜。ほら、オレンジジュースッ、バイタミン、シーッ。ほらしっかり飲みなさい。」とコップに注いでくれます。「最近ねえ、ジム通いの効果がしっかり出てきちゃって、お尻のかたちがよくなっちゃったのよね。ほら見てぇ。」とかわいいお尻をぷりんぷりんさせて、セクシーに歩いてくれます。でもかわいそうなことに、彼はすぐぷっくり太ってしまう体質の上に、真っ白なもち肌、ときていて、どうあがいても彼の目指すマッチョな体つきにはなれないのであります。

 マサヒコくんが自分で自分のことを、「このオカマがさあ、」と言って二重あごを揺らしながらオッホホホ笑いをする様なんて、オカマというより日本の商店街で買い物するおばさんそっくり。あ、ごめんね、マサヒコくん。

 彼だけでなく、みんな自分がゲイであることをまったく隠していません。反対に誇っているのではないだろうか。「アタシはそんじょそこらの薄汚い無神経なオトコたちとは違うのよー。一緒にしないでよね、ふんっ。」という彼らのプライドが見え見えである。

 ある雑誌に若いゲイの子が体験記を書いていました。「ゲイであることをカミングアウトすると、ほとんどの女の子は自然に受けとめる。その後の態度も接し方もまったく変わらない。ところが、オトコたちは露骨にいやな顔になり、つきあいを避けるようになる。」ふーん、オトコってやっぱり苦手なのね、ゲイって人種が。オンナは逆に、ゲイの人たちのほうがつきあいやすいし楽しいし、おまけにしっかり女心の細やかなところまでわかってくれるもんだから、心強い友だちになれる。へたな女友達よりずっとわかってくれたりする。

 ところで、あの人たちって道ばたで色恋沙汰のケンカするときも、キーキーつかみ合いの本気の本気だし、泣いても怒っても嫉妬してもマジのマジ。自分の弱さをバカ正直に表現するその女々しい姿は、オンナの私にも真似できないくらいで感動する。

 さて、もう一人の日本人のゲイの友達、セイさんははっきり言ってくれた。「ほーんと、ニューヨークの女の子たちって、たーいへんよねー。いいオトコはみーんなゲイで、残ってるストレートのシングルっていえば、どっか問題あるのばっかり。あー、ぼく、ゲイでほーんとよかった。うふっ。」私は何も口答えできないで、黙っているしかなかった。くやしいけれど、その通りかもしれん。オンナもオトコも大変。いいよな、ゲイの人は。

 ところで今、タカくんの弟さんにマサヒコくんを紹介しよう、と計画を練っている私であります。ちょっとお似合いのカップルだと思うんだけどなあ。

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