第 49 話
            悪漢アルトロのその後

 近所の「グランドユニオン」で、ばったりヘンリーおじさんに会った。そう、私の前のアパートの住人で、ちょっとキれてるベトナム戦争帰りのおじさんであります。「キャーッ!久しぶりー。」と私たちはハグして再会を喜びあった。ワンブロック隔てただけのご近所なのに、もうかれこれ2年以上会っていなかったのだ。おじさんは、あの頃より若返っていて、表情も穏やかになった気がする。

 「キミをものすっごく喜ばせる、とってもいいニュースがあるんだよ。」と、挨拶もそこそこに、いきなしおじさんは突っ込んできた。一刻も早く話したくてしょうがないって感じがみえみえで、顔がすでにニヤニヤしている。

 「もしかしてアルトロのこと?」。こういうことにはめっぽう勘の鋭い私にはすぐにピンと来た。ブラックの友達と一緒に歩いていたという不思議な理由で、私を前のアパートから追い出した、あの悪漢アルトロである。スーパー(管理人)兼オーナーであった彼は、病気のお母さんを看病してやりたいという言い訳を使って、要するに今すぐアパートから出ていけと私を脅迫したのでした。当時、コントラクトもなしで部屋を借りていた私の立場は弱く、すごすご出ていくしかなかったのでした。

 アパートから私が出て行く当日、ヘンリーおじさんは怒りまくって、私の代わりにビルの窓ガラスをぶっ壊してくれたのでした。当時ブラックのガールフレンドがいた彼も、レイシスト・アルトロにはひどい目にあっていた。彼女がおじさんのアパートに来るたびにひどい言葉を投げつけたり、彼の部屋のドアの前にゴミをドサッと捨てたり、ちょっと悪質すぎるいやがらせにあっていた。結局彼女は彼のアパートを訪ねてくるのがいやになってしまって、とうとう別れてしてしまったそうだ。

 「あいつ、住人に訴えられてもうここには住めなくなって、カリフォルニアに逃げ出したんだよ。」と、おじさんはくくくっと笑った。どうやら、私を追い出した後に入った住人が、よりにもよってロイヤーだったそうな。こわい者知らずのアルトロは、家賃を法外に値上げしようとして、反対にそのロイヤーに訴えられたらしい。しかもそれをきっかけに、それまで彼が行ってきた悪事の数々が暴露されたそうな。ヘンリーおじさんも、その証拠集めに力を貸したらしい。ずっとがまんして沈黙していたビルの他の住人たちからも、実はこんなことがあった、こんなことをされた、と次々に訴えが出てきたそうだ。

 私もいまだに覚えているぞ。入ったばかりの頃、ゴミ出しの日は週3日と決まっている、とウソをつかれた。あれは管理人としての自分の仕事を楽にするためだったのだろう。あるいは、私の部屋だけ3日間も電気を止められたこともあった。寒い夜にヒーターが効かなくて、何度電話しても居留守を使われていたこともあった。そしてずるい奴ほど口が達者なわけで、どうあがいても私には勝ち目がなかった。

 「しかも、うふふ、あいつ、ワイフにも出て行かれちゃったんだよ。」とヘンリーおじさんは愉快でたまらんわい、といわんばかりに顔の筋肉を緩めて話し続ける。ある日帰宅したワイフは、アルトロが他の女と一緒のベッドに寝ているシーンに遭遇してしまった。彼女はその日のうちに荷物をまとめてアルトロのところを去ったそうだ。だが、くやしいことに、実は彼らはペーパー上は結婚していなかったので、彼女はおそらく訴えることも出来なかったに違いない。だがその後、その新しい女が金目の物を盗んでとんずらしてしまい、アルトロは孤独でみじめな身になったらしいじゃないか。ざまーみろ、であります。

 「やっぱり神様って、ちゃんと見ているんだねえ。」と、私たちはしみじみと神様に感謝したのでありました。ほら、みなさんのまわりにもいるでしょ。なんでこんなずるっこしい奴がちゃっかりうまいことやってんだよう、こんなの不公平じゃん、って神様に文句のひとつも言いたくなるような。でも大丈夫。ずるい奴には必ずバチが当たるのよ。

 そういうわけで、アルトロのこの結末は、「たとえ貧しくとも、清く正しく生きていたら、必ず何かいいことあるからね。」と信じさせてくれる強い何かがありました。ざまーみろ、アルトロ。そして、ありがとう、神様。

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