第 40 話
            ボンゴの秋

 寒くなる前にもうひと頑張りとばかり、私は友達をひっぱってワシントン・スクエアパークにボンゴをかかえて出かけた。このボンゴは私の宝物であります。ジャマイカはキングストンの楽器店で50ドルにねぎって手に入れた。そして毎日ココナッツの木の下で、ラスタマンにたたき方を教わり、背負ってニューヨークまで持って帰ったんだから。 

 私は知る人ぞ知るジャマイカ好きでして、もう7回もここに出向き、すっかりハマってしまった。当時の私は頭をドレッド・ロックスできめ、毎晩レゲエのクラブに通い、コンサート総ナメのかぶりつきでノリまくっていたもんよ。ハマりついでに自分の体験をべらべらしゃべくりたくなって、「ほんじゃまジャマイカ」(角川書店)というまぬけなタイトルの本まで出してしまった。

 ともかくそういうわけで、その日私はボンゴをかかえて公園に出向いた。芝生の上にあぐらをかいてボンゴを股にはさみ込み、テキトーにトントコトントコたたく。せっかく本場ラスタマンから習ったテクニックも何も、完ぺき忘れてしまった私は結局自己流であります。人様に聞かせるもんじゃない。とりあえず自分だけ楽しければいいわけよ。ちなみに、ボンゴってのは大抵牛皮を使用しているものなんだが、ジャマイカのボンゴは山羊皮使用である。そのせいか気のせいか、音が痩せているように感じる。

 始めの頃は人の目が気になって、トン...トコ...トン..てへっ...てな調子だったんだけど、一度図に乗るともう誰にも止めれない。 ボンゴのプリミティブな音は私を野生に戻らせてしまう。都会の真ん中でボンゴをトントコトントコたたいていると、「ノォープロブレム。わっはっはっ。」と強気になってくるのよね。

 さてノってきた私の前に、頭をドレッド・ロックスにした白人のにーちゃんがふらふら近づいて来たぞ。しばらくじーっと私の様子をうかがっていたかと思ったら、目の前に手の平を差し出した。「ガンジャ、ちょーだい」。にーちゃんはこう言っておねだりしてきました。「あ、ガンジャは持ってないのよ。」と困って答えると、「あ、なーんだ。」とあっさり去って行きました。ガンジャとはつまりマリファナのこと。うーむ、やはりこんなところでメイド・イン・ジャマイカのボンゴなんてポコポコやってたら、それ相当の人とかん違いされてしまうのですね。

 「ふーん。」と私はめげないでまたポコポコやっていたら、今度は気のいいブラックのおやじが近づいて来たぞ。どうもこの方、そのなりからしてホームレスかドラッグ・ディーラーの風格がある。私のすばらしい演奏をにこにこしながらしばらく聞いていたおやじは、ポケットをごそごそさぐり、チャリーン、とクォーターをボンゴの脇に投げてくれたじゃないの。「おありがとうござーい。」と思わず日本式に深々とおじぎしてしまうのでありました。

 あーあ、またもや親にはとても言えないことをやっている私。こうしてニューヨークの秋はトントコトントコ静かに過ぎていくのでした。

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