第 38 話
            「あかすり」

 すっかり秋になりましたね。夏の置きみやげのように、体中が強い日差しでボロボロに荒れ放題になってしまっているのに気がついた。こりゃいかん、何とかしなくては、と私はあわててコリアンの「あかすり」に行って来た。

 ブロードウェイとフィフスアベニュー の間の、32丁目から34丁目あたりに位置するコリアン街に入ると、キムチと焼き肉の匂いがしてくる。友達から教えられていたそのあかすりのお店は、狭い階段を降りて行った地下にあった。

 ドアを開けて中に入ると、ここもキムチの匂いがプンプン充満している。昔お母さんが使っていた乳バンドというのがぴったしのデカブラと、メイド・イン・福助らしきデカパン姿で、色白のおばさんたちがのしのし歩き回っている。このおばさんたちが、プロのあかすり人なのであります。デカ下着からはみ出た脂肪がたわわん、たわわん、と揺れていて、けっこう迫力がある。ほとんどの人が英語が話せないのに、「ニホンジン?」とまず日本語で聞いてきたところを見ると、どうやら日本人客が多いようだ。

 まずスチームサウナにしっかり入るようにと指示される。ここで茹だったら、手早く冷水シャワーを浴びて、またサウナに入って茹でダコになる。頭がぐらぐらしてきて呼吸困難状態になってきたら、またさっと冷水シャワーを浴びる。これを何度かくり返します。全身が 十分ふにゃふにゃに茹だったところで、さっとまな板の上に寝っころがります。(なんだかお料理教室のノリになってきた。)

 いよいよ、お目当てのあかすりが始まった。下着姿のおばちゃんは、私の上にどかっと股を開いてはいつくばり、ごしごし容赦なく体をこすっていく。こするというより削られている感じで、とにかく痛いのよ。そのうちたまげるほどの量の汚らしいあかが出て来て、消しゴムのカスのようにぼろぼろ落ちていく。ああ、私の体はこんなに汚れていたのね。あかを体にため込んだまま何十年も生きてきてしまっていた、自分の「うす汚れた人生」に気がついて愕然とする。あかすりなんかに一生縁のない人々は、体にあかをつけたまま棺桶に入るのだ。などと、はてしなく人間の人生について考える私でありました。しかしとにかく気のせいでなく、一皮剥けて体が軽くなります。

 さて、あかすりの後は全身マッサージが待っている。羽交い締めにされ、こねくり回され、口答えひとつ出来ない状態。恥ずかし気もなく私の体を隅から隅まで、なめるようにオイルを使ってマッサージしていく。その指使いに恍惚状態に陥る私。これ、ちょっと手がすべったらかなりエッチであぶないマッサージじゃないか。オトコの客の場合など一体何が起こっているんだろうと、いけないことをもやもやと考えてしまった。

 お値段は、チップ込みで100ドル也。これで、サウナと「あかすり」、全身マッサージ、それにフェイシャルマッサージと、おろし金ですりおろしたきゅうり使用の顔パックまでついている。かなりリーズナブルであります。何よりぜいたく感を堪能できるのがこたえられまへんでー。ひざまずいて靴をおなめ、の女王様気分よ。

 たまにはこういうぜいたくのひとつもやってみるのもいいのでは。何より、あかの落ちた体を手に入れたら、こんな私だってもう一回人生やり直せるかも、と別人気分になれます。お試しあれ。

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