第 36 話
            素朴な村娘

 いつもそつも、ちゃらちゃら遊び回っているように思われがちな私ですが、確かにその通りでありまして、今回はメリーランドはサイカスビレというところに遊びに行って来ました。サイカスビレなんて、誰も知らないそれはもうちっちゃな村ですが、ワシントンDCのすぐ近く、と言えば、少しは見当付いてきますね。

 さて、この旅に誘ってくれたクニコさんはニューヨーク在住歴20年のバリバリのニューヨーカー。何かにつけ、「時間がもったいない。」と「You never know.」が口癖でありまして、のほほんとしている愚図な私とは全くテンポが違う。マンハッタンから出発してからずっとまっすぐ前を向いて運転しながら、「時間がもったいないから、ランチはクルマの中で取ろう。」と言う。クニコさんの友達夫婦が住んでいるお家に泊めてもらうことになっているので、口答えしてはマズい、と私はトイレに行きたくなっても、「時間がもったいない!って叱られたらこわいなあ。」とがまんしたりしていた。

 さて、泊めてもらう家族のダンナさんは、この人口3、500人の小さな村の村長さんでありまして、しかも大工さんでもあるのです。村長さんとしての月々のお給料は、たったの400ドルというから笑えます。「ボク、公衆の面前でお話するのが大の苦手なんだ。」と気弱そうにボソボソ言う。でも、村人たちに「おまえ、やれよー。」と推されて断りきれずに引き受けてしまったんだって。

 彼ら夫婦の間には「若草物語」のように4人の娘がいまして、上は17歳、いちばん下がなんと1歳。妻は44歳で最後の子供を産んだのだから、どうしても男の子が欲しかったんだろなあ、というのがあまりにみえみえである。

 この4人姉妹の2番目の娘、15歳のエミリーちゃんは、また絵に書いたような純朴な村の娘でありまして、透き通りように真っ白い肌に栗毛のロングヘア。そしていつも恥ずかしそうに、柔らかい小さなかわいい声でしゃべる。私達のドライブにも便乗してきて、親切にあちこち案内してくれる。「学校は好き?」「ええ、楽しい。大好きよ。」というごく普通の会話から、だんだんシャイな彼女も口数が増えてきた。

 「でもね、うちの学校の男の子たちって、ほとんどがドラッグやってるし。」「え?」「私も一度だけやったことあるけどね。」「ええ?」「そうそう、先月男の子がガン持ってるのが見つかって、ポリスが彼の自宅捜査したのよ。ま、学校に持ってくるなんて、マヌケよね。」「えっ?」「女の子も進んでる子はセックスしまくってて、私の友達も妊娠しちゃって。」「え…?」「でも、彼女産むつもりで、おっきなお腹で学校に通ってるのよ。」「…。」

 断っておきます。彼女が通っている学校はいわゆるきちんとしたごく普通の学校です。ちなみに生徒のほとんどが白人だと言っていました。「実はあたし、ついこの間ボーイフレンドと別れたばっかりで、まだ立ち直ってないのよ。振られちゃったんだもの。でも、彼もドラッグやりまくってて、私もついていけなくなっていたんだけどね。でも彼に、もうあたしには飽きたって言われた時には泣いちゃったわ。男って残酷なものよね。」とエミリーちゃんは、ものすっごくピュアなその瞳を伏せて、大きくため息をついた。私らはだんだん無言になってきました。だが驚くことはない、これがフツーのアメリカの田舎のガキなのだ。

 名物のカニもいっぱい食ったし、鹿や羊もかわいかったし、緑豊かな自然も満喫できたけど、私にはこのエミリーちゃんのお話がいちばんキョーレツに残ってしまいました。村って、底知れない…。


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