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第 29 話
            TVCMデイレクター
 ある時はコピーライター、ある時はイラストレーター、またある時はダンサー(ウソです)といろいろこなす「なんでも屋」の私ですが、久々にTVCMのディレクターの役をすることになった。そう、お仕事が来るたびにいつも私はこんな風に感じる。あ、今回はイラストレーターの役をやるわけね、とか、あ、今回はエッセイ書く役がまわってきた、てな感じですね。

 今回のお仕事はある日系企業のCM。いろんな普通の人達がニコニコ笑っている顔を、大写しのナマで撮っていくという案に決まったんだけど、もちろん予算のないお仕事。こういうアイデアの場合、もう100パーセント、キャラクター勝負なのです。ところが、オーディションをやる予算もない。しかも、赤ちゃんからおばあちゃんまで9人の笑顔が必要なのである。うー、どうしよう。

 私とカメラマンのヒロくんは、自分らの持ち駒をともかく当たることにした。「この人ぞ」と思いつくまま、友人知人に頼んでいく。そうだ、彼女はたしかお芝居の勉強をしていたはず、そうだ、あの彼はフツーのサラリーマン役にぴったし。あっ、私の持ち駒の中でいちばん美人のヒトコは当確だ。てな調子で、どうにかこうにか9人を捜し当てたのでありました。

 さて、撮影当日は早朝から雨。「ごめん、実はボク、雨オトコなんだわ。」とのヒロくんの告白に激怒する私。ところが晴れオンナの私がロケ用のバンに乗った途端、ピタッと雨が止んだじゃないか!ふふん、参ったか。私のおかげで、無事に外のショットが問題なく撮れたのでした。

 この日は夕方から建物内での撮影も待ち受けていた。これがいちばん大事ないわゆる商品撮りになるわけです。クライアントも来ていて、緊張をぐんと高めてくれる。出演する友だちのキミーとジャッキーは大はりきり。「じゃ、今日は日本式に、よーい、どん!って言うことにしよう。」なんて大はしゃぎで打ち合わせしておいたのに、本番になると「どん!」なんてどうやってもクライアントの前で言えるムードじゃないわな。しょうがないので、「よーい、アクション!」と、思わずミックスする私。この方がよっぽど情けない。

 ところでみなさんご存じですか?ディレクターのいちばん大切な役割は、「アクション!」及び「カーット!」の号令を出すこと。ショットを作っていくのいちばん大切な瞬間です。これが気の弱い私にはなかなかつらい。全員が緊迫している空気をじんじん感じながら、声をはりあげて事をスタートさせたり、終わらせたりしなければいけないのです。

 さて、2日目は早朝5時起き。おー、快晴じゃん。朝の公園や町並みのシーンを無事撮り終え、いよいよみんなの笑顔撮りが始まった。おばあちゃんからスタートして姉妹、カップル、サラリーマン…と撮っていく。私が心配する必要もなく、みんながみんな、いい笑顔を撮らせてくれました。しろうとのよさですね。演技では絶対出ない、ちょっと恥ずかしがる自然な笑顔がみんなとってもステキなのよね。

 実はいちばん心配していたのは赤ちゃんでした。ところが、これがまた運のいいことに、代理店の方が「ベイビーキラー」であった。彼の手にかかるとこんな赤ちゃんなんて、文字通り赤子の手をひねるようなもの。彼がちょっと触っただけでこの赤ちゃんってば、よだれ食って大笑いする。おかげで難なく赤ちゃんの笑顔も撮れたのでした。しかし赤ちゃんを笑かすのに必死になってるこの代理店の方ってば。

 ここだけの話ですが、日本の代理店の人たちって、ただ撮影について来て、いばって座って細かいことにケチつけているタイプが多いのよね。この日、突然必要になったスーツをわざわざ自宅までとりに行ってくれたのも、もう一人の代理店の方でした。代理店の方が、こんな制作の若い子がやるような地味な働きをしてくれるなんて、うれしかったなあ。みんなでいいものを作っているという実感がありました。

 ところで、久々に責任の重いお仕事をやった私は、家に着くや、ガーガーとそれから20時間も眠ってしまったのでした。あー、ぐったり。でも、楽しかった。



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