第 27 話
             マルコ・アイランド

 何十年ぶりかの雪なし暖冬続きのニューヨークにも、ついに数カ月遅れの冬がやってきてしまった。3月だというのに雪が分厚く降り積もってきた。こんなところにいる場合じゃないぞ。というわけで、あわてて私とその友2人はフロリダ方面に高飛びすることにしたのでした。今回は「マルコ・アイランド」の巻であります。

 「こ、ここは…一体」。マイアミからレンタカーを飛ばし、その島に一歩足を踏み入れた私たちは言葉を失った。みなさん、きっと「マルコ・アイランド」なんて聞いたこともないでしょう。私もまったく知らなかった。この島に行くことを勧めたのは、今回の同行者のひとりであるキンバリーのお友達でした。その27歳の女友達の、「それはそれはロマンチックな島なのよ。」の言葉を信じ、みんなそれぞれさまざまな期待を胸に、わくわくとこの島に到着した。

 「こ、ここは…じじばば・アイランド」。私たちは思わずこうつぶやいた。捜せど捜せど若者の姿が、どこにもない。どうやらここは、リタイアしたご老人たちのひまつぶしの島であったのでした。道ばたで、レストランで、そしてホテルで、会う人会う人、白髪のじじばば、である。

 ここに住んでいるのも、バケーションで訪れるのも、ひたすらじじばばと、その孫夫婦たち。ゆえに若いシングルといえば、その孫夫婦の連れているガキだけという有り様であります。ああ、なんて恐ろしい島に来てしまったのだろう。せっかくこの日のために買ったセクシーなビキニの水着も、「じじいに見せてもしょうがない。」と、マサコはビーチにも近づかない。ホテルでふて寝するしかなくなってきた。

 ところが、そのうち、私たちをこそこそ盗み見する視線を感じ始めた。そう、この白人しかいない狭い島で、日本人とブラックの私ら3人組は、やたら目立つのであります。私らは完ぺきによそ者なのである。平和な島にやってきたあやしい外国人のようなものである。ニューヨークじゃでかい顔して生活している私たちマイノリティーには、こういう視線は腹立たしくてしかたがない。しかも相手はじじばばときている。ケンカの売りようがないのよね。

 「ああ、若いもんに会いたいよお。若いもんと語り合いたいよお。」と、どんどんもがいて来た私たちは、2日目の夜、とうとうホテルのフロントにキャンセルを申し出たのでした。「でも6日間も予約入れているんだよ。キャンセル料けっこう取られるかもしれない。」と一応覚悟を決めて、「あ、あのう、当然ですがキャンセルしたいんですが。そのう、ここはあまりにつまらなくて。」と切り出した。ら、「あ、いいわよ、いいわよ。よよーくわかるわ、その気持ち。こんな何もない島に長くいたって時間の無駄よ。全くつまんない島。」と、その60代のフロントの女性はあっさりと承諾してくれたばかりか、やたらこの島の悪口を言う。なんだか変だと思って話を続けていたら、彼女もフロム・ニューヨークのリタイア組だったのでした。

 一応はこのホテルのフロント係なんてやっているくせに、この島がどうしても好きになれない、退屈で死にそう、ニューヨークが恋しい、とどんどんエスカレートしてくる。「でもホテルともなると、いろんな宿泊人とお話する機会もあるでしょ。」と尋ねたら、「お話なんて誰もしたがらないわよ。ホテルの客たちは夕方早めのディナーから帰って来るや、ずっと部屋にこもってテレビを観てるだけ。ロビーにも降りてこないんだから。」

 たしかにこの島は、みごとにカルチャーもなければ娯楽もない。部屋でテレビを観ているくらいしかないかもしれない。私たちが行ったメキシカンレストランなんて、メキシカンが古き良き時代のアメリカンヒット音楽をライブで演奏していたんだから。でも逆に言うと、実はこれがごくフツーのアメリカ人の人生なのかもしれません。最後はこういう退屈な島で一日中テレビを観て終わるってわけです。ニューヨークなんかで暮らしていると、フツーのアメリカ人ってのがよくわからなくなっているけれど。

 「とにかくこんな島、あんたたちの来るところじゃないわよ。さっさとキャンセルしてマイアミあたりで楽しみなさい。」とおっしゃるフロントの彼女のお言葉に従い、私らはそそくさと荷物をまとめ、この恐怖のじじばば島を後にしたのでした。

 さて、私たちのバケーションはこれからマイアミ、そしてキーウエストへと続きます。



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