第 23 話
         ルームメイト

 シングル歴00年の私がついにオトコと暮らすことにした。なんて言ったら、ちょっと話がおもしろくなるんだけど、実はなあんだ、ルームメイトとしてであります。しかも1カ月の期限付き。他人と暮らすお試し期間としてはなかなかよい気がします。わけをお話していると長くなるのでカットして、ともかく1か月だけ私はアメリカ人のオトコの2ベッドルームの一室を安く借りることになった。

 赤の他人と暮らすというのは想像以上に難しいらしい。まわりの人たちの話を聞いていても、絶対私は他人と部屋をシェアするなんてできない、と思っていました。特に日本人以外の人種と暮らすと問題が起こりやすいようだ。

 「オレ、昔アメリカ人の女の子と部屋をシェアしてたんだけどさ、ある時おれのヒゲ剃りをその子、無断で使ったんだよな。ちゃんと洗っておけばまだしも、刃の間に足の裏の分厚くなった皮を剃ったらしき形跡が残っていたんだわ。うっぷ。思い出しても気色悪い。文句言ったらガーッと英語でまくしたてられて、口応えのひとつもできないしさあ。あと、冷蔵庫に入れておいたオレの食べ物を平気で食うし。オレがまんできなくなってそこを出たよ。もう二度とアメリカ人とは住みたくないわ。」

 「私のルームメイトなんて、やっぱりアメリカ人なんだけどさ、昼間っからリビングルームでボーイフレンドとエッチするんだよ。私が部屋にいるってわかっててもへっちゃらなのよ。あの神経わからんなあ。」「私のルームメイトはコリアンの女の子だったんだけどさ、超ドケチなんよ。私が友達をアパートに呼んで食事作っていたら、その友達の分の電気・ガス代を払えって言われたんだよ。信じられないよね。」「僕のルームメイトなんて、やっぱしアメリカ人の女の子なんだけどさ、トイレを使った後絶対流さないんだぜ。もうやめて欲しいよな。」

 この手合いの話を全くおもしろいほどよく耳にする。マンハッタンのレントがむちゃくちゃ値上がりし、もはや一人で普通のお部屋を借りることが難しくなってきてしまった。ゆえに見知らぬ他人とアパートをシェアすることが避けられなくなってきています。

 さて、そんな話ばっかり聞いていたせいで、最初はかなりナーバスになって心配していたんだけど、私はものすごくラッキィだったようです。このアメリカ人のルームメイトときたら全く「暮らし」というものに無頓着な奴だったのよね。例えば私が夜中の3時にいきなし掃除機でお掃除ブンブン始めても、いっこうに驚かない。例えば週末にすっかり寝過ごして、夕方の4時頃にボケ顔で起き出してうろうろしていても、やはり驚かない。その上うれしいことに大の料理好きでして、週末になるといっぱい友達を招いてディナーパーティーを開く。そして彼が招いた友達たちの間に、なぜか私の友達まで紛れ込んで、みんなでうまい食事にありついたりしている。そんなことにすらこの無頓着者は気がついていないようでした。

 さてある日、そのルームメイトが私の耳元でささやいた。「モシモシ」。そして、ニヤッと笑った。ありゃー、これは一本とられたぞ。いつの間にやらこいつ、私が電話で話しているのを聞いて覚えてしまったのね。確か日本のことにまったく興味がない、と言っていたのにさ。うーん、こんなかたちの文化交流ってのも悪くないじゃないか、などと、この新しい体験をかなりおもしろがっている私であります。



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