第 20 話
         私は帰るぞ
 帰るぞ、帰るぞ。私は帰るぞ。もう耳のちぎれそうな寒さも関係ない。夜な夜な響くクラブの騒音もどうぞご勝手に。くそったれプエルトリカンの女なんていないもんね。 何たって、私は明日からしばらく日本に帰るんだから。しばらくの間、ニューヨークのごたごたからエスケープしてしまうのさ。ざまーみろであります。

 いざ帰る、となるとまずやらなければいけない大仕事は、サブレットです。高い1か月分のレントを無駄にしている余裕はない。私は帰国の度にサブレットしているので心得たものです。まず張り紙を作り、「サンライズマート」や「サッポロ」といった日本食品店やレストランに出しに行く。昔は無料で勝手にボードに貼らせてくれていたが、今やその数がどんどん増えてしまい、こういう張り紙を出すために少しチャージされるようになりました。それでも確実にたくさんの人の目に止まるので、いちばん効果的です。

 今回も10件くらい連絡がきて、無事すんなりと借り手も決定。カムちんもネコ好きの友が今回も預かってくれる。ありがたい。

 さて、お次はつらいお土産捜しであります。安くて軽くてかさばらない物を必死で考える。女友達には今まで、例えばTパックの下着とかDKNYのストッキング、男友達にはビタミン剤などを大量に買って帰っていました。さて今回はどうしよう。そろそろネタ切れだよー。すでにオーダーされているものも捜しに行かなければならない。今回はヤンキースのユニフォームと、塩(!)をすでに頼まれている。一体なぜ塩なんだー?と私は首をひねってしまう。レモンソルトとかガーリックソルトが欲しいんだって。日本にはこういうものがなかったっけ。とにかく金がかかります。もちろん親兄弟への土産なんて塩とか靴下なんかじゃ絶対許されないしね。

 ところで私は岡山の出身であります。したがって、仕事の拠点である東京に滞在すためのアパートを、いつも友達から安く借りることにしている。しょっ中旅に出ているプー太郎の友を持つと、こういう時心強い。なんせ普通の人と違うサイクルで生活している私には絶対自分のスペースが必要で、どんなに狭くても勝手な時間に寝起き出来る毎日を確保できることは最低条件なのよね。何にしろいろいろ大変なのよ、いざ帰るとなると。

 さて、いざ日本に帰るとみんながちやほやお客様扱いしてくれます。「こんなのニューヨークじゃ食えないだろう。」と、高級レストランからガード下の一杯飲み屋まで、毎夜毎夜どこかしこに連れていって、ぽーんとごちそうしてくれる。築地で久しぶりにスシでなく寿司を食べた時は、そのあまりのおいしさに感涙した。ヌードルでなくラーメンをすすった時など、ああ、日本ってなんとすばらしい国じゃ、と日本国民であることに誇りすら感じたものです。そうやって涙しながらがつがつと食らう私を、みんなは温かい目で見守ってくれるのでした。持つべきは良き友達です。

 それにつけても、昔日本に住んでいた頃は、おしゃれで華やかな業界人間だったこの私が、今や家賃の支払いを毎月心配する身になったのですから、いやはや人生ってのはおもしろい、とほほ。前回帰った時、仲良しの友達がうす汚い身なりの私をジーッと見て、「あんた、落ちぶれたねえ。」と冷たく言い放ってくれました。「うん。」と正直に答えるしかなかった私ですが。さて、今回は何て言われることやら。「あんた、落ちぶれた上に、古びたねえ。」とか…。

 とにかく帰るぞ。帰るだから。でもでも、なんだか、少しこわいのよ。もう芸能人の名前なんてわかんないよ。お洋服や流行のことなんてすっかり忘れてしまったぞ。ニューヨークじゃ何が流行ってんの?なんて質問するなよー。というわけで、次回は日本は一体どうなっておるのか、現地密着取材であります。

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