第 18 話
      ニューヨークプレス

 毎週水曜日に「ニューヨークプレス」を近所の酒屋さんから取ってくる。ニューヨークでいちばんメジャーなフリーペーパーといえば「ビレッジボイス 」ですが、私は「ニューヨークプレス」がお気に入り。ぶ、がつくほどには厚くなく、超、がつくほどには情報が詰まってもいず、読みやすい。ムービーやアート、ミュージック、レストランなどのごく普通の情報に加え、レギュラーで何人かのエッセイストがコラムを持っている。けっこう辛口のマイナーな立場からの意見が多いのも、このペーパーならではのカラーです。

 私のささやかなお楽しみコーナーは「プレスマッチ」。これは、出会いを求める人達のための三行広告欄です。愛とセックスでギンギンムラムラしていて、ここに目を通し始めるとついのめり込んで時の経つのも忘れてしまう。関係ないけど、私はこの「プレスマッチ」のおかげで、ずい分新単語を覚えたものよ。辞書にも載っていないエッチで奇妙な単語の意味は、いつもアメリカ人の友達に尋ねました。そう、あまりのおもしろさにそこまでのめり込んでいました。

 まずは「男性募集の女性」「女性募集の男性」のコーナー。このあたりはまだごく普通の、真面目なものが多い。「あたし、美人で、スマートで、やさしくって、アトラクティブで、プロポーション抜群。長くおつき合い出来る方、連絡してね。」「当方、顔よし、性格よし、お金持ち。結婚を前提にしたおつき合いを望みます。」てな調子で、「インテリジェント」とか「ロマンス」「ラブ」「オネスト」といった辞書にちゃんと載っている手合いの単語が目につきます。

 その次は「男募集の男性」「女募集の女性」、つまりゲイの人達用のコーナーですね。ここに入ると「セクシィ」だの「ファンタジー」だの「マスキュラー」いった単語が多くなる。そして、いつもいちばん楽しませてもらうのが「ワットエバーズ・クレイバー」の欄。これって、「何だってOK。何だって、やろうぜ。」のコーナーであります。オーラル得意、おしおきして、3人でやりまくろう、てな調子でして、人間の底知れぬ欲望がひしめき合い、ただれた世界が丸出しで、愉快この上ない。        

 さて、なんとマキちゃんがこの「プレスマッチ」で結婚相手を見つけた。彼女、ニューヨーク在住15年。ヨガの先生をやっている健康美人です。いつも必ずかっこいいボーイフレンドを取っかえ引っかえ連れている人でしたが、真面目に結婚を考え始めた。いざ結婚相手捜しとなった時、なぜ「ニューヨークプレス」を選んだのか。

 「友達がこれで今のダンナと知り合って結婚し、すっごくシアワセに暮らしてるのよ」。その友達は結婚3年。その3年間、周りの人たちには、友達の紹介で知り合った、ということにしていたんだって。「『ニューヨークプレス』で知り合ったって言うのが、恥ずかしかったんだって。でも、私はそういうの全然平気。それに、最初から結婚相手を捜している人とつきあった方が時間の無駄もないし、お互い目的がクリアで合理的よ。」と、さすがオトコにもててきた彼女はしっかり自分に自信を持っています。うう、私にはとてもできない。出会いコーナーを真剣にチェックして、「ボク、ハンサムでスウィートでスマートでリッチなナイス・ガイです。キュートでスリムでインテリジェントでエレガントな女性求む。」なんて広告に連絡したりしようものなら、一生みんなの笑いの種になりそうで、こわい。

 そういえば、昔読んだ桐島洋子さんの「淋しいアメリカ人」では、彼女がロサンゼルスの「フリープレス」というという新聞に結婚相手捜しの広告を出し、いろんなアメリカ人男たちとつき合っていく様子が描かれていた。ううむ、やっぱり自分に自信を持っている人は、人の目なんて気にしない。そうよね、欲しい物はがんがん言ってどんどん手に入れていかなきゃね。毎週水曜日に、他人の欲しい物をのぞき見して楽しんでいる場合じゃないのでした。



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