第 15 話
            イチコさん

 私には64歳の自慢のお友達がいます。彼女、イチコさんに会った人は間違いなく驚く。その信じられない若さに、であります。どう見たって40代にしか見えない。シワ・タルミなんてありゃしない。といってもフェイスリフトなんてまがいものをやっているわけじゃないからね。若い頃は加賀まり子に似ていたと思われる美人であります。最近ジムに通うようになって腕や太股にきれいな筋肉がつき、お肌は輝きを増し、ますます若くなっていく一方。私の方が間違いなくたるんだ贅肉がぶよぶよと所かまわずついている。

 彼女のボーイフレンドは41歳。グッド・ルッキングのバリバリのロイヤーさん。ホントだってば。でも二人が並んでいても全然違和感がない。彼女の方が若く見えるくらいである。「やっと、自分の歳相応のオトコが見つかったわー。」と喜んでいた彼女は、今の彼氏に会うまで20代もしくは、50代のオトコとしかつきあっていなかったんだって。そうか、彼女には40代がいちばん歳相応なわけか、と感慨にふける私です。

 そんな彼女ですから、やはりオトコ回りの話がつきない。私が友達たちに「聞いて、聞いてよー。」と、まるで自分の武勇伝のように誇らしく話すのは、あのジョン・トラボルタにナンパされた、というお話。

 ある日、彼女が道を歩いていたら後ろからずっとついてくるオトコがいる。気持ちが悪いので通りかかったお店に急いで入ったら、そのオトコも後ろからついて来た。そして自分の名前を名乗った後、「あのう、もしよかったら今夜ディナーをご一緒できませんか?」と彼は紳士的にお誘いの言葉をかけてきたそうです。ところがイチコさんはこう答えたのよ。「ごめんなさい。もう今夜は女友達と約束が入っているので。」女友達なんて放っておけよー。トラボルタさんはすごすご去っていったそうです。

 「もったいない!」と絶句する私に、「だって、めんどくさいよ、有名人は。」ううう、めんどくない、めんどくない。

 以前あまりにもモテない私を心配して、彼女がオトコを紹介してくれたことがあります。彼は彼女が当時通っていた短期ビジネススクールの先生で、35歳。知性と教養はもちろんのこと、やはりグッド・ルッキングのナイスガイである。   

 さて、彼女のアパートで彼とご対面した私は、イチコさんお手製のクッキーとお茶で楽しい時を過ごし、らんらんららん気分で帰ってきた。その翌日、彼女から電話が入りました。「実は、あなたが帰ったあと彼がいきなり言ったのよ。ボクがほんとに愛しているのは、キミなんだ、って。困るわよねえ。」あのう、もしもし、私は一体何だったのでしょうか。でも、普通なら腹立つちそうなこんなお話も相手が彼女だと、しょうがないな、と納得してしまうのよね。

 よくよく考えてみたら彼女ってほとんど私のお母さんの歳じゃないか。と、いきなし自分の母親の顔が浮かび、その人生の大きな隔たりにまたまたショックを受けるのでした。うちのお母さんに35歳のオトコに「愛してるぜ。」と言わせる力があるか。きっぱり、ない。

 彼女の存在は、私をはじめニューヨークでシングルライフを送る、あせり気味の女友達たちの心の励みとなっています。「そうよ、64歳でもいいオトコは手に入るのさ。私らだってまだまだいける。」と、明るい未来を信じることが出来るのでした。

 「でも、私らエイジアンってトクしてるよね。やっぱり、若くみられるもの。」「ネコと日本人オンナの歳だけはわからない、ってアメリカ人も言ってたよ。」「あー、ニューヨークに来てよかったあ。」と私らは再度明るい未来を信じることが出来るのでした。



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