第 12 話
            ナンパ話

 そもそものきっかけは、ヤマちゃんでした。ニューヨーク在住歴15年の彼は、時代の流れにしっかり乗り遅れていて、「アムロがさぁ」なんて会話には、絶対入ってこれないかわいそうな男です。その彼がなんと、いっちょ前にナンパをした、というじゃないの。

 「それがさぁ…」。彼のダサい話に私らはのけぞった。彼は『サンライズマート』という日系食料品スーパーの前でうろうろしたあげく、「ねー、カノジョオー、お茶しない?」と声をかけた!というじゃないの!今どきそのフレーズを使う奴アンタくらいよ、と言っても「なんでー?」と不思議そうな顔をするだけの男に、一体何から教えてあげればよいと言うのでしょう。もちろん声をかけられた女の子は不気味そうに足早に去っていったそうですが。

 そこから一気にナンパ話で盛り上がっていきました。そして、どうも日本から来てまもない頃にひんぱんにナンパされている、という点でみんなの経験は一致した。「そういや、あの頃どうしてあんなにモテたんだろう。」と、ニューヨーク暮らしがすっかり板についてしまったキツそうな私らは、当時をなつかしく振り返る。どうやら顔つきが全然違うらしい。日本から来てまもない女の子って、ボーッと隙だらけのしろうとヅラしてる、と日本人の女の子をナンパしまくっているハイチ人のにーちゃんから聞かされた。

 考えてみたら私もやはりそうでした。めくるめくあの頃の数々のナンパされた思い出。いちばん多いのはイエローキャブの運ちゃん。みんな挨拶代わりにナンパしてくる。むんむん濃い体臭のミドルイースタン系の運ちゃんは、必ずといっていいほど「おまえ、日本人か?」の質問から始まり、ビューティフルの連発の後、キャブから降りる頃には電話番号を聞いてくる。

 そうそう、ワシントン・スクエア・パークでボケーッとしていたら、通りかかった奴等にあとからあとからどんどんナンパされた記憶もある。みんながみんな、「今、何時ですか?」から始まるパターンにはあきれました。時計ははずしておいた方がいい。

 なぜか、昔日本人の彼女がいたんだ、という奴もすごく多い。どうやら一度日本人の彼女を持つと、いろんな意味で味をしめるようです。いろんな意味ってのは、つまり日本人の女の子は簡単に人を信じてくれたり、浮気をしても許してくれたり、お金を惜しみなく与えてくれたり、みたいなことですね。

 笑ったのは、同じ男に同じ場所で3度ナンパされたというクミコの話。3度目には思わず二人とも、「えー!またぁ?」と叫んだそうですが。そういや、「スイマセーン」と日本語でナンパしてきたイタリアン男は、私の友達数人にも「スイマセーン」とナンパしていたぞ。世間は狭いんだからね、ふんっ。

 ナンパのダサいところは、誰でも何でもいいから、ともかく数打ってりゃそのうち当たるだろう、という態度。だから、パターンがまるで一緒。同じセリフと同じやり方をひたすら使い回ししてるのよね。どうせナンパするなら、自分らしさにこだわりと主張を持ってやりなさいよ、とこの頃全くナンパすらされなくなった私は悪あがきするのでした。



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