第 5 話
      悪漢アルトロ/その2

 ダッダッダッダッダッ。ある夜、突然ファックスが作動し始めた。

 さて、前回に引き続き、悪漢アルトロのお話その2であります。

 彼は徹底したレイシスト。私が彼のアパートを借りたその日に「絶対にブラックとはつきあうな。奴らは最低最悪の人種なのだ。」と、とんでもなく余計な釘を刺し、私をムカつかせていた。スーパーとしてもせこい奴だった。たとえば、私のアパートは光熱費も込みだったのだけど、電気代がかかりすぎている、といってコン・エディソン(電気ガスの会社)から勝手に私のアパートに人を差し向け、部屋で使っている家電類を細かくチェックさせたりしたこともあった。そして、電気代を食うコンパクトサイズのヒーターを発見した時、彼は怒りまくって、「このアパートにはちゃんとセントラルヒーティングが入っているんだから、こういうものを勝手に使うのはやめろ。」とケチをつけてきた。恐ろしい野郎である。

 その問題の、アパートに入っているべきセントラルヒーテングだが、どんなに寒くなってもギリギリまでヒーターを入れなかったんだよね。ビルの入り口で住人たちとケンカしているのもよく見かけた。「もう寒くて凍えそうなんだよ。ヒーター入れろ!」と怒鳴る住人のおじさんたちの声が通りすがりに聞こえてきた。スーパーはこういう時ヒーターを入れる義務がある。なのに、ビルのヒーターをケチって電気代を浮かそうなんてこと考える、まったくケチな野郎でありました。

 「おまえはボクの貴重なアドバイスを無視した。必ずいつか、ボクの言うことを聞いておけばよかったと後悔するだろう。」その突然のファックスはこういうとんでもなくこわーい内容でありました。その日の昼間、私は黒い人と歩いていて、ばったりアルトロに会ったのでした。「こんちはー。」と明るく挨拶する私を完ぺきに無視し、こんな奴知らん、と他人顔でこやつは足早に去ったのでありました。

 「そうかあ。そういうことね。ふうん。」その差出人の名前のない脅迫状(と私は言ってしまおう)は私の大ヒンシュクを買い、その夜、テレビ・ラジオはもちろんのこと、炊飯器から電気スタンド、そしてふふふ、えらく電気代を食う例のヒーターまで、とにかく部屋中の家電を全てオンにして使いまくってやったのでした。

 さてそれからも、貴重なアドバイスとやらをしっかり無視してまたまた黒い人と歩いていたら、ついに追放宣言が出たのでした。私を呼び出したアルトロはいつになくしんみりした口調を作り、話を切り出した。「実は田舎の母が病気になり、とても心配なのでボクの目の届く所にいさせたいんだ。ついては、本当に申し訳ないんだけどキミの部屋に母を住まわせたいと思っていて。つまり、出ていってもらえないかな。」なんてわかりやすいウソつくのだー、こいつは。病気の母親をわざわざ田舎から引っぱり出して、エレベーターのない5階に住ませるかよー。

 残念ながら私はその部屋を手数料なしの代わりに契約書を作らないで借りてしまっていたため、訴えてもいずれは追い出されるとロイヤーに言われ、諦めたのでした。泣き寝入りはしたくなかったが、これはもうしょうがない。なんでも契約書のお国というのを身にしみて痛感したものです。

 それにしても、よ。ただ黒い人と歩いていただけでアパートを追い出されるなんて、あんまりじゃん。奴隷制度の時代でもあるまいし。一体何がどうなっとるんじゃー。日本でのうのうと暮らし、差別のことなんてまともに考えたことのなかった私です。だが、自分の身にこういうことが起こってしまい、ニューヨーク、いやアメリカという国に対して、怒りがむくむくとわき上がったのでした。



home
essay contents
next