第 4 話
     悪漢アルトロ/その1

 今回は、悪漢アルトロのお話をしましょう。こいつ、◯○○で、○○で、○○ッ○で、○○ッ○○!さあ、このマルのなかに、好きなように発禁用語を入れましょう。そう、そういう奴なのよ。

 私がいちばん最初に入ったアパートメントのスーパー、つまり管理人が、悪漢アルトロでありました。彼はコロンビアの出身だと自己紹介してきた。そのころまだ「コロンビア」と言うコトバから「えっ!ドラッグ…」なんて連想ゲームできるほどには私もスレていなかったので、「あー、いいとこですよね。」なんてニコニコお返事を返していたものです。 

 まだ20代ながら、このビルのスーパー業に甘んじることなく、実はこの私のお部屋のオーナーでもあり、クルマの輸出業もやっているらしい。私が日本人だからこの部屋を貸すことにした、ときっぱり言い切るくらいの日本人好き。もうすでにこういうところからしてちょっと信用できない奴でありました。日本人だから、と言う理由で貸すような奴ってのは、たちが悪いのである。いや、これは私の考えすぎかもしれない。そうよ、日本人という人種のすばらしさをこの人はわかっているのかもしれないじゃないか、と私はなんとかいいほうに考えようと試みた。が、どうしても虫が好かない奴、という印象は変えようがない。

 スプリングの効かないベッドやこわれかけのソファ、映りの悪すぎるテレビなどを取りそろえて「ファニチャー付き」となっているこのアパートで彼と初めて会った日、彼は私のなりをジロジロ観察し、「そのアタマ、似合ってないね。」と言いました。そのころ私はジャマイカにハマっていまして、もちろんアタマは自慢のドレッド・ロックス・パーマ。このアタマにケチつけるなんて、なんだかとてもイヤな予感がしたのでした。

 「さて、このアパートを貸すにあたって、店子のキミにぜひ話しておきたいことがある。」彼はおごそかな口調で話し始めた。

「キミはまだなんにもニューヨークのことなんて知らないシロートさんである。だから非常に大切なことを教えておいてあげる。いいか、絶対にブラックとつきあうな。」私はポカンとしてしまった。なんなんだ、一体。なにをこやつは言いたいのだ。「で、でも私はいい人は好きで、いい人なら白だろうと、黒だろうと、黄色だろうと、ピンクでもパープルでもかまわなくて…あはは…」。笑いをとろうとしたのに、アルトロは無表情。そして、こう言い放った。「いいか。ピンクやパープルならオーケイだ。でも、ブラックだけは、だめだ。」「なんでだ?」「チッチッチッ。キミはホントにシロートさんだね。ブラックは平気で悪いことするんだ。金盗んだり、だましたり、人を殺したり。だから、絶対にこのアパートに彼らを入れるな。これはこのアパートのオーナーとしてのアドバイスだ。」

 なんてこった、これはもう完璧な差別じゃないか。訴えてやる!と今の私ならわめきちらしたことでしょう。しかしその時は私も「ケッ、うるさい奴だ。」と、ただムッとしただけでありました。そう、まだこの国のレイシズムのこととか、私には全くよくわかっていなかったのね。そういうのってマジで考えるのもめんどくさい、カンケーないや、と思っていました。ただ「人類みな兄弟」「One Love」くらいの人間としての常識はあったけどね。

 さて、結論をさっさと先に言ってしまいますと、1年後私はいきなしアルトロから追放宣言を受けたのでした。一体何でだ?何があったのだ?という鋭い質問にお答えするため、このお話は次回へ続きます。



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