第1話
わたしが・ここに・やってきた・理由

 「あー、ニューヨークなんて、大ッキライだぁ〜!」

  零下10度。分別わきまえない寒さでキンキンする頭を抱え、私はストリートの真ん中で雄叫びした。1年365日のほとんど半分が冬だなんて、私は知らなかったぞ。そんなこと、誰も言ってくれなかったぞ。もう白金台のアパートも引き払ってしまったんだぞ。HONDAのシティも友達に売りとばしてしまったんだぞ。しかも、ああ、どうしよう、ネコまで連れてきてしまったんだからあ。どうしよう、今さら帰れないんだから、もう。

 なんでまた、こんなとこに住んでしまったんだよぉ。私のせいじゃない、私のせいじゃないぞー。ニューヨークに移住して以来、冬が来るたびに、「だまされた」とうなだれる。こんな夜は、ロシア人を除く、ニューヨーク 中の移民たち全員が「だまされた」とうなだれているに違いない。

 ではなぜニユーヨークに?と聞かれるたびに、あの宝くじグリーンカードのお話から始めなければならず、相手が地元の(?)アメリカ人だと、こんなものの存在すら用がないから想像もできないわけで、「つまり、宝くじで当たるのよ、永住権が。」「エッ!宝くじでアメリカ人になるの?」「だからぁ、…」、と話がゴタついてきてしまいます。ああ、めんどい。

  グリーンカードってのは、アメリカで好きなだけ働いて永住できるビザのことです。市民権ではないので、もちろん私はアメリカ人にはなりません。しかしこんな重要なものを、宝くじで当たった人にあげちゃうなんてやり方が、まったくもってアメリカであります。こらこら、おちゃらけんじゃないよ、であります。

 でもって、そうです、私はその宝くじグリーンカードが当たってしまったクチなのです。まだ日本がバブルでどんちゃん浮かれている頃、ニューヨークに住んでいる友達がわざわざ応募してくれた。なんかよくわかんないけど、コカコーラ1年分でももらえるのか、あはは、なんていう、軽いジョークの気分でありました。

 さて、まさか当たるとは思っていなかったものだから、当たってしまった時には1日だけうろたえた。だが事の重大さを思考する冷静さもなく、ともかく当たったからには、もらわにゃ損のビンボー性。まぁいいか。バブルのおかげで金はある。後ろ髪ひいてくれるオトコもいないし、やめる会社もない。とりあえず1年くらいゆっくりツーリストしてくるか。てな、のんきな気分でここにやってきたというわけです。

 私はだから、いつも後ろめたい思いを背負ってここで生きています。「そういうわけでして、夢とか野望とか目的とか、そういうものは別に抱えて来ていないわけでして、すいませーん。」と、ペコペコ頭を下げてこの「えきさいてんぐなシティ」に住んでいるのです。

 そうです。私はこの宝くじグリーンカードのせいでここに来たのです。私のせいではない。そして毎年冬になると、道ばたでこうやって空しく雄叫びしているのでした。


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